「誰も貸してくれないときの最後に頼る銀行」と揶揄されるのがスルガ銀行です。今では家を売りたくてしょうがない不動産業者の担当者も、スルガ銀行を進めることはなくなったようです。ただ、もし進められたら、その業者や担当者のことを疑った方が良いです。
なぜ、そんなにスルガ銀行の評判は落ちてしまったのか。今回はその点について考えていきます。
スルガ銀行の悪行
スルガ銀行は静岡県沼津市に本店がある地方銀行です。不動産投資をしている人であれば、知らない人はいないのではないでしょうか。「不動産投資ローンといえばスルガ銀行」いつの間にか、そんなイメージができ、実際、不動産投資ローンをスルガ銀行で組んでいる人はたくさんいます。
2011年頃から始まったワンルームマンション投資ブーム。所得を増やす目的で30~40代のサラリーマンが次々と投資を始めていきました。スルガ銀行は、そこに目をつけ、個人に対する不動産投資ローンに特に力を入れて、次から次へとひっきりなしに融資するようになったと言います。なかには、何故自分が審査に通ったのかわからないと疑問を抱く人もいたそうです。
こうして、2016年には融資総額の約80%が不動産投資ローンという状況になっていました。業績もうなぎのぼりで上がったと言います。
しかし何故、そんなにスルガ銀行に顧客が集まったのでしょうか。確かに大きな銀行ですが、他にも、もっと良い条件で貸し出してくれる銀行はたくさんあったはずです。
そこには、あってはならない裏の理由が隠されていました。
スルガ銀行は投資目的の物件を購入する個人に対して、融資の際に、ローンの審査基準を満たしていない案件については通帳のコピーや源泉徴収票などの審査書類を捏造したり、不動産業者に捏造を指示し、不正な貸し付けを行っていたのです。
書類の捏造によってスルガ銀行の審査は他の銀行に比べて圧倒的に緩い、というより意味をなしていない状況になっていました。結果、「他の銀行で審査が落ちても、スルガ銀行なら通る」という噂が広がり、不動産投資業者は普通なら審査に通らない案件を次々にスルガ銀行に回すようになり、スルガ銀行も本来なら断るべきところも審査を無理やり通して利益にしていたというわけです。
かぼちゃの馬車事件
不動産投資をしている人ならほとんどの方が知っている「かぼちゃの馬車」事件。スルガ銀行の不正が次々に発覚したのは、内部告発などではなく、この事件がきっかけでした。「サブリース」という言葉が広がったのもこの事件からでした。
かぼちゃの馬車とは、スマートデイズという会社が行っていた女性専用のシェアハウスブランド名です。スマートデイズは、不動産投資家に「かぼちゃの馬車」の建築の話を持ちかけ、その後、建てられたシャアハウスをサブリースするという事業を行っていた会社でした。(サブリースとは、簡単に言うと、空室になった場合もその間の家賃を保証する、その代わり、毎月手数料を取るよというものです。)
シャアハウスはキッチンやバスルームなどを共用にし、部屋数を増やすことで家賃を下げるというものです。共用部分が多いので同じシェアハウスに住んでいる人とは毎日、顔を合わせるわけですが、そのような賃貸形式はこれまでにあまりなく、入居者が集まらないのではないかという空室リスクを心配する声が投資家からあがっていました。ただ、空室になっても家賃を保証するというサブリース契約にするため、安心して良いと謳い、投資家を集めました。
シェアハウスのオーナーとなった投資家は、家賃収入から建築費用のローンを返済していくわけですが、シェアハウスの入居率が伸びす、空室が目立っていました。その後、あまりにも空室が増えすぎてしまったため、保証に充てる資金が底をつき、2018年1月、ついに投資家に対して家賃を保証できないと通告があがりました。
スマートデイズから賃料が振り込まれなければ、オーナーの家賃収入は当然ゼロです。家賃収入がゼロであれば、ローン返済の原資がなくなり、結果、ローンを返せないオーナーが続出し、自己破産に追い込まれたオーナーも出てしまいました。
しかし、ここで少し疑問が生まれます。いくら家賃収入が途絶えたとしても、ローン返済ができなくなるのは不思議な話です。ましてや自己破産までしないといけないまで追い込まれるのはおかしいです。
なぜなら、本来、ローン審査というのは、貯蓄や年収など、家賃保証がなくても返済することができるかどうかの観点でも審査が行われるはずです。一人や二人ならまだしも、返済できないオーナーが続出するような事態にはならないはずです。
この疑問から、スルガ銀行のずさんな融資が浮き彫りになっていきました。
「かぼちゃの馬車」は相場の倍の建築費用をかけて建てられていたことがわかりました。浮いたお金はスマートデイズが建築業者から法外なキックバックを受け取っており、そのために建築費が異常に高くなっていました。スルガ銀行にとっては建築費が高くなれば、融資額も増え、儲かります。このおいしい話に乗ったスルガ銀行は、不正な審査で次々に不正融資を行いました。
結果、本来なら審査に通らないような経済状況の投資家がオーナーとなり、家賃保証がなくなったことで、高額なローンを払えないオーナーが続出してしまったというわけです。
この事件をきっかけに、スルガ銀行の不正融資が続々と発覚し、2018年10月、金融庁から6ヶ月間の不動産等仕向けの新規融資の業務停止と業務改善命令が出されました。
被害にあった投資家の多くは、これまで不動産投資をやったことがない初心者がほとんどだったそうです。金利も他の銀行より高く、有識者なら借りるようなことはしない条件でした。
このように不正融資を行う銀行が存在し、そんな銀行から融資を受けると、最後に泣きを見るのは裏事情も何も知らない投資家となるということは知っておいた良いでしょう。
不動産投資に与えた影響
この事件は、直接、被害があった方だけの問題に収まらず、不動産投資家全体に影響を与えています。
不動産投資業界を大きく変えることになった「スルガショック」と言われる程です。
まず、投資用のワンルームマンションを複数所有していることが原因で住宅ローンの審査に落ちるようになってしまった人が増えていることです。
それまでは、自身の家の住宅ローンの審査では、投資用マンションローンの借り入れ有無について審査からは切り離されており、問題なくローンを組むことができたのですが、スルガ銀行の不正融資問題をきっかけに、金融庁からのローン審査の実態についてのチェックが厳しくなり、審査基準も借入限度額も厳しくなってしまいました。
よほど年収が多い人でなければ複数の投資用マンションローンを組んでいる場合、住宅購入はあきらめなければいけない状況になってしまっています。何てことをしてくれたんだ。
マイホームローンの失敗例
本記事の最後に、スルガ銀行からマイホームローンを組んだ方の話を書きます。
私の知り合いに、10年くらい前に家を建てるときに夫婦共同名義でスルガ銀行からお金を借りて家を建てた人がいます。当時、その方は正社員ではなく、継続3年勤務にも満たなかったのですが、子供も小学生になり、賃貸では狭く感じていました。また、奥さんがピアノが得意で将来、ピアノ教室を開きたかったそうで、どうしても家を建てたかったそうです。
しかし、地銀のローン審査が通らず、ハウスメーカーの担当者にスルガ銀行を進められたそうです。そこでは無事、審査は通ったのですが、借入利息が4%と、その当時でもちょっと信じられない高さでした。ただ、子供も大きくなり、ピアノ教室を開きたいという夢もあり、それでも借りて家を建てました。
夢のマイホームを建てたわけですが、毎月のローン返済が厳しく、何をするにも思い描いたどおりにいかずに、結局その夫婦は離婚してしまいました。ただ、離婚しても当然ローンは残るので、離婚した後も、元夫、妻で返済を続けていったわけですが、もう限界だと元夫が自己破産しようと元妻にもちかけました。しかし、元妻は、自己破産は嫌だと拒んだそうです。子供が成人したため、元夫は家の名義を元妻に移し(資産放棄し)、残りのローンは元妻とその両親で今でも返済を続けているそうです。
本来、基本的な審査基準は銀行間で差が出るものではなく、スルガ銀行だけ審査が通るというのはおかしな話でした。銀行からしたら融資できるならしたいはずです。それでも、ローン審査で落とすということは、そこには理由があり、借りる側のためでもあるということです。ただ、家を建てたいと考えているときは周りが見えなくなり冷静な判断ができなくなります。不動産会社もせっかく見つけた客をみすみす逃したくないわけで、不利なローンを組ませても買わせるわけです。言ってみれば、買った人が住宅ローンを払えなくなって家を手放したり、自己破産したりしても、関係ありませんから。
ある日、飲み屋で良い感じで酔っぱらってる傍らで、その知り合いが「家なんて買うんじゃなかった」と不意につぶやいたのが印象的です。
業者や銀行からしたら、収支に対して、家ばかりに比重をかけてしまい、家庭が壊れてしまうという良くあるケースのひとつに過ぎないかもしれません。ただ、その人や家族にとっては人生を左右してしまう本当に重大な分岐点だったということです。