
FIRE(Financial Independence, Retire Early)。
会社をはじめとした様々なしがらみから解放され、文字通り自由な生活を送る手段。そのFIREを目指す人が若者を中心に増えているのは確かなようです。
20代のうちから資産形成を全力で行い、40代でのFIREを目指すという方も多いようですが、そのFIREを目指す際には、公的年金制度について十分に考慮する必要があります。
公的年金は、老後の生活を支える重要な収入源のひとつであり、資産運用やリタイア後の資金計画に影響を与える可能性があるためであり、若いうちにFIREしてしまうと公的年金が十分に受給できないことも考えられます。
そこで本記事では、FIRE実現にむけて、公的年金制度について考えていきます。
社会保障制度とは
社会保障制度とは、政府が国民の生活を保障するために設けた制度のことです。国民が安心して生活できるようにするための重要な仕組みです。
また、公的年金制度は社会保障制度の一部であり、特に老後の生活費用をサポートするためのものです
社会保障制度には主に以下のような仕組みがあります。
年金制度: 老後の生活を支えるための金銭的な支援
医療保険: 医療費の一部を国が負担することで、医療サービスを受けやすくする制度
雇用保険: 労働者が失業した場合の生活を支援するための保険制度
児童手当: 子育て世帯に対して支給される金銭的支援
これら社会保障制度の負担の仕組みと、いざ自身が上記の制度に該当するときが来たときのために、給付の仕組みについて知っておくことは大切なことです。
FIREを考えているならなおさらです。会社を辞めることで社会保障はどのように変わるのか、それを知らぬまま勢いでFIREしてしまうと、少し先の未来で後悔してしまうことになりかねません。
特に、老後の生活の基盤となる年金制度についての理解は必須と言えます。早い段階でFIREすることで老後にもらえる年金受給額は大きく変わってしまい、老後への影響はとても大きなものとなります。
FIREすることで長い年金生活にどのような影響を及ぼすのか、次節から具体的に考えていきましょう。
2024年平均消費支出
老後の年金生活を考える上で、まずおさえておかないといけないのは1ヶ月あたりにかかる生活費です。
生活費は人によるところが大きいのでいくら必要なのかは一概には言えないところですが、世間一般のデータで考えてみます。
2025年2月7日に公表された、総務省「家計調査報告-2024年(令和6年)12月分及び2024年平均-」によると、消費支出(2人以上の世帯)は1世帯あたり30万243円となっています。つまり、老後の夫婦二人での暮らしには、1ヶ月あたり30万円は必要というデータとなります。
上記データは「平均」なので「中央値」や住んでいる地域によってはもう少し下がりそうですが、将来のインフレ率上昇を考えると「30万円」という数字は現実的なものであると捉えた方が良いのでしょう。
日本の年金制度
日本の年金制度は以下の3つに分かれます。
- 公的年金
- 企業年金
- 個人年金
企業年金と個人年金は、公的年金に上乗せして老後の生活を支える私的年金制度です。ただそれらは必ず加入しなければならないものではないため、ここでは公的年金について考えていきます。
公的年金には以下の2種類があるということはご存じだと思います。
- 国民年金
- 厚生年金
日本の年金制度について、3階建ての構造で例えられることが多いわけですが、その例に習うと、1階が国民年金、2階が厚生年金、3階が企業年金と個人年金となります。
国民年金
20歳以上60歳未満の国民全員加入の制度で、すべての年金の土台になることから基礎年金とも呼ばれています。
厚生年金
民間企業の従業員・公務員等を対象に、国民年金に上乗せ給付を行う制度です。
国民年金の給付額は、40年間(480月)保険料を納めた場合に受け取れる金額が人によらず一定となるのに対し、厚生年金の給付額は在職中の給与水準と加入期間などによって決まります。
公的年金の給付額
公的年金は国民年金と厚生年金の2種類があるというのは前節のとおりです。本節では、それぞれの年金の給付額について見ていきます。
国民年金の給付額
国民年金の給付額は、納付期間である40年間(480月)保険料を納めた場合、年間の給付額は「79万5000円」となります。
これは会社員時代の年収などは関係なく、「定額」となります。(正確には国民年金の満額は毎年度の経済状況や物価の変動に応じて調整されるため、毎年変動することがあります。)
なお、40年間の中で、保険料を滞納もしくは免除されていると、その期間分が減額されます。
厚生年金の給付額
2階部分の厚生年金は人によって給付額が変わってきます。
厚生年金は、個々の収入や勤務期間などに基づいて計算されます。
具体的には、以下の要素によって決まります。
平均標準報酬月額
現役時代の平均給与額です。収入が高ければ高いほど、受け取る年金額も多くなります。
加入月数
厚生年金に加入していた期間の長さです。長期間加入しているほど、給付額は増えます。
支給率
0.005481
※報酬比例部分の年金額を算出するための定数(5.481÷1,000)。
これらを踏まえて、厚生年金の計算式は以下のようになります。
年金額 = 平均標準報酬月額 × 加入月数 × 支給率
収入や勤務期間などの違いにより、各個人の厚生年金給付額が変わってくるという点がポイントです。
FIREした場合の年金受給額
優雅で不自由ない年金生活を送るためには、厚生年金でいくらもらえるのかというのが重要となるのは言うまでもないでしょう。
国民年金の満額(定額という表現の方が適切かもしれません)は、(2024年度で)年間「81万6000円」であり、1ヶ月あたりだと「約6.8万円」です。
これだけでは、どうやり繰りしても足りません。
我々のような会社員にとって、重要となってくるのが厚生年金による受給額になるわけであり、不自由ない年金生活を送れるかどうかはココにかかってきます。
そしてここでもう一度思い出していただきたいのは、厚生年金の計算式です。
年金額 = 平均標準報酬月額 × 加入月数 × 支給率
まわりくどい言い方になってしまいましたが、つまり、この式から厚生年金の受給額を上げるために必要なのは以下であることがわかります。
- 長期間働く
働く期間が長ければ長いほど、厚生年金の加入月数が増え、受給額も増加します。定年後も働き続けることで、受給額を上げることができます。 - 高収入を得る
厚生年金の計算には平均標準報酬月額が影響します。高収入の仕事に就くことで、年金受給額も増えます。昇進やスキルアップによる給与アップが有効です。
国税庁の「令和5年分民間給与実態統計調査」では、2024年の日本の平均年収は約443万円だったそうです。
そこで、平均年収443万円の人が40年間働いた場合に、厚生年金受給額がいくらになるか計算してみます。
平均標準報酬月額 = 4,430,000円 / 12ヶ月 = 約369,167円
加入月数 = 40年 × 12ヶ月 = 480ヶ月
厚生年金額 = 369,167円 × 480ヶ月 × 0.005481 = 約971,234円
これに、国民年金分を足せば、年金受給額は1,787,234円となり、1ヶ月あたりにすると「約14.9万円」になります。
2024年平均消費支出が約30万円であり、その金額の半分にしかなりません。夫婦合わせたとしても届かないでしょう。また、年収443万円の手取りは約340万~360万円程度(1ヶ月あたり28万~30万)ですので、現役時代の収入には遠く及びません。
「年金だけでは生活できない」という声がよく聞かれますが、こうやって計算してみると、現役のときにしっかり働いたとしても、そうした声の現実味が帯びてきます。(さらに、算出した金額にはインフレ率は考慮されてませんし、将来この受給額がもらえるとも限りません。)
さて、前置きが長くなりますが、次に本題であるFIREした場合の年金受給額について考えてみます。
仮に厚生年金の加入期間が40年の半分の20年だった場合、当然、年金受給額は変わります。
計算は単純で2で割ってやれば良いです。つまり、厚生年金の支給額は年額約48.5万円となり、国民年金はFIREした後も加入義務があるため、満額受給すると仮定すると、合計支給額は1ヶ月あたり「約10.8万円」となります。
1ヶ月あたりで約4万円の差が生じます。この差が残りの人生でずっと続くわけですから、すごく大きいです。
4%ルールの現実性
「4%ルール」とは、毎年資産運用額の4%未満を生活費として切り崩していけば、30年以上経過しても資産が尽きる確率は低いというものです。
その根拠は、米国株式市場の平均的な成長率とインフレ率の差から導き出されており、FIREするための主となる資産運用に関する考え方です。
4%ルールには一定の現実性があるのは理解できますが、不確実性も内在しているのは確かです。
米国経済が成長し続けることが大前提となっており、これからもそれが続く保証はありません。あくまで過去のデータに基づくものであり、経済危機が発生した場合やインフレ率が予想よりさらに高まった場合など、さまざまなリスクが考えられ、4%ルールが将来続くとは限らないということも頭の片隅においておかないといけません。
まとめ
年金制度をどこまで信頼してよいか不透明なところは確かにありますが、多くの人にとって老後生活の基盤となるものです。
経済状況が悪化し、株式をはじめとしたすべての資産クラスが下降しているときであっても、(それらよりは)安定して受給できるのが年金です。
早い段階でFIREしたことで、その年金受給額が生涯にかけて減ってしまうということも忘れてはいけません。
その時々のライフステージや健康状態などによって支出が変化するため、貯金の切り崩しが続く場面も必ずあります。
FIREを目指す上で上記のようなことも踏まえてシミュレーションする必要があると考えます。